ITRF2020（International Terrestrial Reference Frame 2020）
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概要
ITRF2020（International Terrestrial Reference Frame 2020）は、国際地球回転・基準系事業（IERS: International Earth Rotation and Reference Systems Service）によって 2022 年に正式に発表された、最新の地球基準座標系です。ITRF シリーズは地球上の位置や運動を高精度に定義するためのものであり、ITRF2020 は従来の ITRF2014 の後継として、観測技術の精度向上や地殻変動への対応を目的に更新されました。この基準系は、VLBI（Very Long Baseline Interferometry）、SLR（Satellite Laser Ranging）、GNSS（Global Navigation Satellite System）、DORIS（Doppler Orbitography and Radiopositioning Integrated by Satellite）の 4 つの観測技術のデータを統合して構築されています。
データフォーマットの概要
- 座標データ：3 次元位置（X, Y, Z）を基にした直交座標系形式で提供され、各観測ステーションの年次変化（速度成分）も含まれます。
- 速度モデル：各ステーションの地殻変動（直線的な運動＋非線形要素）を考慮した速度ベクトルが提供されます。
- 時間タグ：観測時期に基づく時系列データ（基準時点は 2020.0）
- ソフトウェア対応：GIPSY、Bernese、RTKLIB などの GNSS 解析ソフトでの活用が可能
長所
- より高精度な座標基準：従来の ITRF2014 と比較して、特に南半球や一部プレート境界地域での精度が向上しています。
- 非線形地殻運動のモデル化：大地震や長期的な地殻変動に伴う非線形動きを明示的に考慮しており、時間による位置精度の劣化を抑制。
- 最新観測技術に対応：2020 年までの高精度な測地観測データが反映されており、マルチ GNSS 環境下での信頼性が高い。
- グローバル対応：世界中の基準局を統一基準で扱えるため、国際的なデータ共有や測量基準の統合に適しています。
短所
- 非線形成分の扱いの複雑さ：非線形地殻運動を扱うため、従来の直線近似モデルよりも複雑な計算が必要となり、ソフトウェアやデータ解析に一定の専門知識を要します。
- 旧システムとの互換性課題：ITRF2014 や ITRF2008 との座標変換時に差異が生じやすく、旧バージョンの基準で構築されたデータベースとの整合性確保に追加作業が必要な場合があります。
- 高精度を活かすためのインフラ要件：観測機器や解析環境が古い場合、ITRF2020 の精度メリットを十分に活かせないことがあります。
応用シーン
ITRF2020 は、測量・地図作成、GNSS 測位、地殻変動解析、地球物理学、海面変動監視、宇宙機の軌道計算、国家基準座標系の更新など幅広い分野で活用されています。特に、GNSS 観測網の高精度化や、災害予測・復興計画における正確な地殻変動把握、さらには複数国・地域間の位置情報統一にも重要な役割を果たしています。
例
- ITRF2020 と ITRF2014 間の変換パラメータの推定に使用されたサイト。
- ITRF 局分布 [出典: Altamimi et al.]。
